Time is on our side, yes it is
僕は野球ファンではない。
だが、日本ハムの優勝が自分のことのように嬉しい。
僕は、高校卒業後、アメリカ留学を目指す人向けの、英語だけ教える予備校に通っていた。
千葉県の実家から千駄ヶ谷まで、黄色い電車に乗って1時間。毎日、ラッシュを避けるために早めの電車で通っていたので、授業開始より30~40分ほど早く着く。
授業が始まるまでの時間は、予備校玄関脇のロビーに座り、置いてある朝日新聞やJapan Timesをだらだらと読んで時間をつぶすのが日課だった。
そこに、僕よりも早く予備校に来て、玄関脇のロビーでJapan Timesを読んでいる生徒がいた。しかも、新聞を読みながらも、出勤してくる予備校の講師や事務員さん達ひとりひとりに、元気な声で「おはようございます!」と挨拶をするのだ。
彼の名は岩本賢一。普段は「けんちゃん」と呼んでいたが、その予備校にはケンジとかケンイチとかが合わせて5人ぐらいいたので、まわりにほかのケンちゃん達がいる時は「北海道けんちゃん」と呼んでいた。北海道の旭川出身だから、というだけの理由で。
早朝のロビーで、こんな会話を交わしたことがある。
dygo「けんちゃん、アメリカでなにを勉強するの?」
けんちゃん「オレ、スポーツ選手のフィジカル・コンディショナーになりたいんだ。あっちの方がその分野は進んでるし。オレ、メジャーリーグ大好きだから、本場でそういう仕事がしたいんだ」
dygo「へぇ~、けんちゃん野球少年なんだ~。じゃ、ちっちゃい頃の夢は野球選手とか?」
けんちゃん「うん。でも小さい頃に体を壊しちゃったから選手は無理なんだけどね、だけどオレ野球が大好きだからさ、裏方でもいいから野球選手を支えるような仕事したくて、それでアメリカで勉強しようと思ってね。dygoちゃんはどうして留学したいの?」
dygo「オレ、映画が大好きなんだけどさ…」
けんちゃん「あ、映画監督を目指しているとか?」
dygo「いや、ソフィー・マルソーっていう女優がいるんだけどさ、英語ペラペラになって、その人と結婚しようかと思って…」
意識が違いすぎる。オレ様の方がはるかに明確なビジョンを持っていたということだ。
イチローも松井もプロ入りする前、野茂がメジャーリーグに行くよりも前、日本人メジャーリーガーなんて1人もいなかった時代に、北海道けんちゃんは毎朝予備校のロビーでJapan Timesのスポーツ欄にあるメジャーリーグの記事を読んで英語の勉強をしていた。
彼を一言で表すと「実直」。3分話せば、彼が誠実な人だってのはすぐ分かる。
物腰はすごく柔らかいけど、芯がしっかりしていて礼儀正しくて勤勉で、優しい。
その年の秋に僕が原因不明のコンピュータウィルスに冒されて長期入院した時も、彼は千葉まではるばるお見舞いに来てくれた。
その数週間後、予備校の卒業パーチーの日、ある程度元気になった僕は病院から外泊許可をもらい、誰にも言わずに、みんなの前に劇的なサプライズ登場をした。その時、驚きつつも笑顔で迎えてくれた友たちのなかで、北海道けんちゃんだけが「dygoちゃん、本当にもう大丈夫なのか? 元気になってくれて本当によかったよ」と、ボロボロに泣きながら僕の腕をつかんできた。そんな熱い男だ。忘れない。
年が明けて、彼はケンタッキーの大学に合格、僕はケンタッキーフライドチキンに就職。
留学中も、何回か手紙や電話のやりとりはあったのだが、しばらくしてフェードアウト。
それでも、僕がアルバム「黄色い電車にのって」を彼に送ったら、電話をくれて、絶賛してくれた。
彼が卒業したころ、彼の実家に電話すると「野球関係の仕事に就いて、チームと一緒に全米を飛び回っているから、親でさえもあの子が今どこにいるかもわからないんですよ(笑)」とお母様。もらった電話番号(フロリダだったかな?)にかけたが、確かになかなか出ない。
数年後、新庄がメジャーリーグに挑戦して話題になった。新庄がインタビューに答えているテレビを見てたら、彼の後ろに北海道けんちゃんを発見。彼は新庄の専属通訳兼トレーナーになってた。夢をかなえたのね。
僕はといえば…、その頃やっと英語が少しわかるようになり、ソフィー・マルソーがフランス人だったことを知った。
北海道けんちゃんは、その後、日本ハムが北海道に本拠地を移すのに合わせて、ヒルマン監督の専属通訳として凱旋帰国。
10月の初め、プレーオフを直前に控えた北海道けんちゃんに札幌で会った。実際に会うのは約15年ぶり。
彼は変わっていなかった。見た目も、実直な魂も。
いや~、ほんとうにいいやつだ、彼は。
へたすると、野球選手よりも真剣に野球に取り組んでいる。野球に限らず、物事に対する彼の真っ直ぐな姿勢を見ていると、こちらの心も引き締まる。
彼のような熱意を持った人がちゃんと球界の上層部にいれば、野球ももっと盛り上がるんじゃないかな。政界にも欲しいよ、こういう人。日本ハムの宝、いや日本の宝だね。
優勝おめでとう! 北海道けんちゃん。
全部ウソです。ちょっとメディアに露出すると、旧友や親戚を名乗る人物が急に増えるというのは本当です。
予備校の卒業パーチーにて。
僕、相当やつれてます。まだ歩くのがやっと…。
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おぉ・・・。懐かしいなぁ北海道ケンちゃん!
真冬にチャリンコに乗って働いているケンちゃんの姿をTVで前に見た気がする。そうか、今は日本ハムなんだねぇ~。
しかし、ソフィーマルソーがフランス人だってのは俺もついこないだ知った。。。(笑)
007では相変わらずキレイで惚れ直しました。
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>ちょっとメディアに露出すると、旧友や親戚を名乗る人物が急に増えるというのは本当です。
本当です。私もその一人で~す(笑)
でもけんちゃんは本当にすごいね。夢をかなえてすばらしい。人柄もかわってないんだね。
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お兄ちゃんさん
彼の話は、何度かスポーツ雑誌やTVでとりあげられてるみたいだよね~。
ソフィーマルソーはほんとに変わらないまま年をとった感じで、本当にきれいだわ~。40歳だなんて信じられないです。
英語じゃなくてフランス語を勉強するべきでした…_| ̄|○
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なつさん
ちょっとした同窓会でしたよ。マサアキ君と3人でジンギスカン。2人ともキラキラ輝いてました。僕の頭もキラキラと。