日伊バカ同盟
LAの大学に短期留学していた時、メシがノドを通らなかったことがある。理由は「些細な失恋」とでもしておこう。当時の僕は繊細なA型だったのだ。
それなりに元気に振舞っていたつもりだが、メシもまともに食べてないとやはり顔に出てしまうようで、見る人が見れば「dygoは最近元気がない」と気づかれてしまうものだ。
その日のランチも、寮の食堂でバナナだけしか食べられなかったと記憶している。そして食堂を出た時、仲良しのイタリア人、フランチェスコに声をかけられた。
「ダァ~イゴ(イタリア語訛り)、ちょっと話があるんだけどいいか?」
このフランチェスコという男、とにかく24時間ふざけている。くだらないウソ話や、下ネタばかり言っていて、写真を撮るときも変な顔しかしない。コメディ映画でやりたい放題やっている時のジム・キャリーやロビン・ウィリアムスみたいな感じ。
ただ、パルマ大学との交換留学で来ていた学生なので、ただのアホではないらしい。実際、彼の悪ふざけは「頭の回転速いな~」と感じさせるものばかりだったので、そのセンスにはものすごく惹かれていた。
知り合って1ヶ月ぐらいだったが、寮で毎晩一緒に悪ふざけをしていたので、十年来の親友みたいな仲良し関係だった。
さて、本題に戻ろう。
フランチェスコに「話がある」と呼び止められた僕は、本当は人と話すのも苦痛なぐらい落ち込んでいたのだが「別にいいよ」と応じた。
「ま、座ろうぜ」とフランチェスコ。食堂の前の芝生に2人並んで座る。
以下は、陽気なフランチェスコと、落ち込んでいるのを作り笑いでごまかすdygoの会話。
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D:なんだ、話って?
F:ダァ~イゴ、俺は昨日夢を見たんだよ。未来の夢。
D:未来?
F:うん。夢の中で未来のお前が出てきたんだよ。なんか知らないけど、お前が何かで成功して有名人になったみたいでね、テレビに出ているんだよ。
D:おう、それで?
F:お前が自伝を出版して、テレビでインタビューを受けていたんだ。
D:へぇ~。
F:で、俺はその本を読んだんだ。そしたら、お前が今こうやってLAに留学してる時のことが書いてあるチャプターがあってね。そこを読んだらさ、「僕はたまに悲しいと感じる時があった」って書いてあったんだよ。
D:悲しい? あはは、毎日こんなに楽しいのに?
F:ホントにそうかな? 俺は確かに読んだんだよ。理由はよくわからないけど「ときどき悲しい時がある」ってね。お前、なにか思い当たることないか?
D:いや、ないなぁ…。ホームシックでもないし。
F:ならいいんだけど…。でもダァ~イゴ、俺の夢はよく当たるからさ、気になったんだよ。
D:あはは、確かに俺は有名人になるけどね。…ま、気にしてくれてありがとな。
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その時の僕は本当にどん底まで落ち込んでいたくせに「実は落ち込んでるんだ」と素直に言うこともできず、強がって全否定してしまった。
でも、この彼の“粋”なウソ話のお陰で、かなり気が楽になり、その日の夕食から食べることはできるようになった。
落ち込んでいるへの接し方っていろいろある。
・大丈夫? と声をかける。
・話を聞いて、励ます。
・そっとしておいてあげる。
・気づかぬふりして、気が紛れるような集まりに誘ったり、笑えるネタをふる。
どの方法もケース・バイ・ケースだし、逆効果になるリスクもある。
落ち込んでいる人の問題を根本から解決してあげることはできないかもしれない。でも「落ち込んでいることに気付いてあげる」だけで、少しは楽になるものだ。
よく新興宗教の教祖が当てずっぽうで「今までよく一人でがんばってきたんだね」とか「君のせいじゃないんだよ」とか言うだけで、悩みを抱えてる人は救われた気分になったりするけど、理にかなっている。
この時のフランチェスコのこのウソ話は、思い出すたびに目頭が熱くなる。このウソ話のおかげで、あの日どれだけ僕が救われたことか。
透明の涙に気付いて、あえて透明のハンカチを差し出す、みたいな。
この男、天才。
この時もし僕が「失恋してメシものどを通らないんだ」と素直に打ち明けていたとしても、フランチェスコは失恋をネタにした笑えるウソ話で僕を励ましてくれていたに違いない。
ちなみに、フランチェスコとはその4年後に再会している。
パルマに数週間ホームステイをする機会があり、その時に連絡がとれたのだ。
久しぶりに会う彼はまったく変わらず、ジョークを交えながら、車でパルマの街や郊外の村を案内してくれた。
夕食後、僕のホストファミリーの家の前まで送ってもらう。
車を降りて、別れを惜しむ日伊バカ同盟2人。
D:いや~、本当に再会できてよかったよ。次はいつ会えるかわからないけど、日本に来る時は必ず連絡してくれよ。
F:ああ、また会おうぜ。元気でな。
堅く握手&軽く抱き合う(イタリアですから)。
FIAT UNOに乗り込んで去っていくフランチェスコ。
そして僕がホストファミリーの家に入ろうとした瞬間、背後でキキキー、ブゥンブゥンという激しい車のエンジン音。
振り向くと、フランチェスコの車がUターンして、すごい勢いで戻ってきた。
そして全開にした車の窓から、満面の笑顔で中指を突き立て、
「Sporco Muso Giallo!!!!! 」
と叫び、そのまま走り去っていった。
彼が叫んだ言葉は「薄汚い黄色の豚野郎」。英語なら「Fuckin' Jap」だ。
もちろん彼は、僕がその意味を知っていることを知っている。
彼流の「Arrivederci il mio amico(友よ、また会おう!)」。
最後の最後まで粋なバカ野郎だ。
たまたま会った○△□人が意地悪だったからって、その人の国を嫌うことは間違っているけど、たまたま会った○△□人が素敵なやつだったから、その人の国を好きになるのはアリだと思うよ。
全部ウソです。なぜだか今夜のパスタはしょっぱいです。
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ねぇ、なんでこんないい話なのに誰もコメントしてないの??
鼻から涙が出ちゃったよ。
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のりぃさん
ふふふ、のりぃさんのハートを狙い撃ち。それで満足。
僕は急に寒くなったので、目から鼻水が出てきました。修行が足りません…。
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目から鼻水が出たら、ニャンコ先生みたいな涙になりそう。
お誕生日おめでとうでした。
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フランチェスコ!
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のりぃさん
はい、糸をひきます。
お誕生日ありがとうございます!
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ニーナさん!
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さすが dygo さんのお友だち。
viva フランチェ~スコ!
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BABA
いひひ、そうです、私はステキな想像上の友達をたくさん持っているのでーす。